- Quick Charge 5は最大100W“以上”供給可能な超急速充電規格!
- USB-CとUSB PDに最適化しているが厳密には規格違反な気がする!
- 可能性は感じるのでSDM SoC非搭載機でも利用可能になってほしい!
USB PDとの微妙な関係性。
Qualcomm『Quick Charge 5』の仕様を調べたので、そこから感じる可能性や問題点について考えてみます。急速充電規格がまた増えて、今よりもさらにカオスになりそうな予感……。
互換性は保つと言いつつも、完全に別路線に歩んでいますものね。
USB PDに統一してほしいんやけどね。
目次
Quick Charge 5の概要
Qualcommの独自急速充電規格である『Quick Charge 5』は、2020年7月27日に発表されています。
つまり、すでに発表から半年以上が経過していることになります。ですので、すでに周知されている内容も多いかと思いますが、改めて技術仕様を確認すべく、Qualcommの公式ドキュメントに目を通してみました。
■公式ドキュメントから分かること
- 100W以上の電力供給をサポート
- レガシーQuick Chargeとの後方互換性を確保
- Quick Charge 4比で70%高効率充電
- 5分充電で0%から50%まで急速充電
- USB PDとUSB Type-Cの規格に最適化
- 1SnP/2SnPバッテリーの充電をサポート
- 12個の電圧・電流・温度の保護機能搭載
- Snapdragon 865/865+以降サポート
Quick Charge 5最大の“キモ”となるのが、USB PDの規格値を超えた100W以上の電力供給をサポートしているという点。すでに、OPPOの『125W flash charge』という急速充電規格で、USB PD超えの最大125Wの電力供給を実現しているのですが、Qualcommもそれに追随した形となりました。
また過去のQuick Chargeとの後方互換性を確保しており、Quick Charge 5に対応した充電器を用いれば、レガシーなQuick Chargeを採用しているスマートフォンでも急速充電を可能となっている。(余談ですが、Quick Charge 4のみ後方互換性がありません)
そして、個人的に注目していたUSB PDとの兼ね合いなのですが、USB Type-CとUSB PDの規格にはしっかりと最適化しているとのこと。遵守ではなく“最適化(optimized)”という記載なので、微妙に茶を濁されている感じも無きにしもあらず。とはいえ、USB-IFを完全に無視する方向性ではないことだけは伺えます。
仕様を読んでると、Quick Charge 4+の完全体って感じがするんだよねー。
Quick Charge 5の仕様
電力 | 最大100W以上 |
電圧 | 3.3V–20V |
電流 | 3A 5A >5A |
備考 | USB PDサポート PPSサポート Quick Charge 4+以前との後方互換性確保 |
Quick Charge 5の仕様
さらに詳しく調べてみると、Quick Charge 5では、電圧が 3.3V–20V の間で細かく可変する仕組みになっていました。この電圧の範囲を見ていても、5A以上の電流供給が可能なこと以外は、まさにUSB PD PPSそのものといった感じです。
そう考えていくと、実はQuick Charge 5という規格は、最大21Vの出力にも対応しているのではないかとも勘ぐってしまいます。なお、この“21V”という数値は、USB PD PPSが持つ電圧範囲の最大値(20V Prog)から予測したものです。
ソース | |||||||
Quick Charge 2.0 | Quick Charge 3.0 | Quick Charge 3+ | Quick Charge 4 | Quick Charge 4+ | Quick Charge 5 | ||
シンク | Quick Charge 2.0 | Fast charging | Fast charging | Fast charging | Standard charging | Fast charging | Fast charging |
Quick Charge 3.0 | QC 2 | Fast charging | Fast charging | Standard charging | Fast charging | Fast charging | |
Quick Charge 3+ | QC 2 | QC 3 | Fast charging | Standard charging | Fast charging | Fast charging | |
Quick Charge 4 | QC 2 | QC 3 | QC 3(Early device) QC 4(Later device) |
Fast charging | Fast charging | Fast charging | |
Quick Charge 4+ | QC 2 | QC 3 | QC 3(Early device) QC 4(Later device) |
Fast charging | Fast charging | Fast charging | |
Quick Charge 5 | QC 2 | QC 3 | QC 3+ | QC 4 | QC 4+ | Fast charging | |
USB PD | Standard charging | Standard charging | Standard charging | Fast charging | Fast charging | Fast charging |
Quick Chargeのソースとシンクの関係性
Quick Charge 5には、レガシーなQuick Chargeとの後方互換性があるので、USB PD対応のスマートフォンを含めて、幅広いデバイスにて急速充電が可能になっています。
上表のとおり、基本的にQuick Chargeという急速充電規格は、後方互換性が保たれるように設計されています。しかし、USB PDと高い互換性を持たせた『Quick Charge 4』のみ、レガシーなQuick Chargeとの後方互換性がありません。これではユーザーが不便を強いられてしまう。
そういうわけで、これまで見てきたように『Quick Charge 5』という急速充電規格というのは、従来のQuick Chargeとの互換性を保ちながらも、USB PD(Power Delivery 3.0)の機能をフルで利用できるようにしたものになっているということになります。
そう聞いていくと、良さそうな気しかしないんやけど!?
うーむ…それは難しいところなのであーる。
懸念していること
USB-IF規格違反の問題
このQuick Charge 5は、USB Type-CやUSB PDの規格に最適化されているとQualcommは謳っています。ただ、やっぱりUSB-IFの規格に違反しているのではないか、ということはやはり気になるところ。
USB-IFでは、コネクタとケーブルにUSB Type-Cを用いて充電・給電を行う場合においては、USB Type-C CurrentとUSB PD以外の充電方法を用いることは認めておりません。なので、スマートフォンベンダー各社が策定している独自の急速充電規格というのは、厳密にはUSB-IFの規格に遵守していない(C to C の場合)ことになります。
話は戻って、Quick Charge 5の仕様ですが、前述したようのレガシーQuick Chargeとの後方互換性が保たれているということから、USB-IFの仕様どおりになっているとは考えづらいものがあります。ここを気にしすぎても仕方のないことですが、今後も同規格が発展していく上で、USB-IFとどう摺り合わせるのかは気になるところ。
専用ケーブル乱立の懸念
そして、もうひとつ気になるところとしては、5A超過の出力をどうやって行うかということがあります。
両端がType-C形状のUSBケーブルでは、流せる最大電流は5Aまでとなっています。ですので、当然ながらこのままでは5A超過の出力というのは、理論的に行なえないことになります。これだとUSB PD PPSと同じになってしまうので、Quick Charge 5の価値が1つ失われたことになるわけです。
ひょっとすると、Huaweiが『Huawei SuperCharge』で行った、専用のケーブル(こちらは A to C だけど)を作るというパターンかもしれません。こうなると、専用ケーブルが乱立する懸念が出てきます。もしくは、5A超過の出力を行う充電器に関しては、両端がType-C形状のUSBケーブルではなく、片側がACアダプタ直付けという形で収めてくる可能性もあるかもしれません。
E-markerをゴニョゴニョ…ってして、C to Cケーブルで5A以上出せるように拡張しちゃうのかなー!?これはこれで危ない気がするけど……。
USB-IFに怒られる予感しかしませんわね。
期待していること
ダイレクトチャージの普及
いろいろ思うことはありますが、Quick Charge 5が『USB PD PPS』をサポートしているということに関しては大歓迎なクチ。これで一気にダイレクトチャージに対応するスマートフォンが増えてくれればと願っています。
現状ではUSB PD PPSに対応しているスマートフォンというのは、知る限りではSamsungのGalaxyシリーズくらい。調べればもっとありそうですが、日本で入手可能なメジャーどころのスマートフォンの多くが、このUSB PD PPSには対応していません。
これがQuick Charge 5の普及によって、一気にUSB PD PPS対応のスマートフォンが増えてくれるのではないかと期待しているわけです。もちろん、Qualcommの急速充電規格なのでSnapdragon搭載機に限られてくるわけですが、それでも今までよりは状況が良くなるのではないかと思っています。
USB PDの機能拡張
現状、Quick ChargeはSnapdragon縛りがあるので、どうしても恩恵を受けられるデバイスというのがスマートフォンやタブレットに限定されてしまう。ただ、これらに充電するのは低い電力供給量でも可能なので、何だか宝の持ち腐れ感もあるような気がしてしまう。
そこで、このQuick Charge 5の技術をUSB PD側に逆輸入して、Snapdragon搭載機以外でも100W以上の電力供給量が可能になってくれれば嬉しいところ。そうすれば、現状のUSB PDの電力供給量では充電が困難な、高出力ノートパソコンもUSB Type-Cで充電できるようになるはず。
多くのノートパソコンはUSB PDの規格範囲内(≦100W)で充電できるのですが、強力なdGPUを搭載している大型ゲーミングノートパソコンやモバイルワークステーションは100Wでは全然足らないのです。これが結構ノートパソコン選びで足枷になっていたりも。
もし、Quick Charge 5の技術を用いてUSB PDの出力が拡張されれば、将来的には『HP ENVY 15』や『Razer Blade 15』のような、超高性能ノートパソコンもUSB Type-Cで充電できるのでは…と淡い期待を抱いています。
まとめ「将来性は感じるが規格乱立は混乱の元」
『Quick Charge 5』は、Qualcommが策定しただけあり、スマートフォンベンダー各社が囲い込んでいる急速充電規格よりは普及しそうな予感。
とはいえ、こうやってUSB Type-Cからさまざまな充電規格が出てきていまうと、ユーザーの混乱を招きそうな気がしてなりません。ですので、他社の独自急速充電規格やUSB PDと、どう折り合いをつけていくのかが今後のカギになりそうです。
まだまだ追いかける必要がありそうであーる。
おまけ
せめて、USB PDとQuick Chargeの二択に絞ってほしいぞぞぞ。
端子だけはユニバーサルですから、余計に混乱してしまいますわね。
どうしてスマートフォンベンダーは、もっとUSB PDを使う方向に行かないんやろうね?
うーむ…闇を感じるっ!
おわり
QualcommとUSB-IFの関係性が…うぬぅ!?